No.57 金利上昇期の住宅ローンに注意

〜マンションチラシに潜むウソ〜


 住宅販売の新聞折り込み広告などの中には、かなり注意して読まなくてはならない部分が多々ある。 以前から当サイトで指摘していることだが、中には「だまし」と言われても仕方のないような広告もある。

 特にローン返済に関する部分は、現在の低金利を前提に、当初2〜3年程度に適用される固定金利期間の返済額ばかりを ことさら強調し、あたかもその状態がずっと続くかのような錯覚を起こさせる書き方が横行している。

 先日、マンションのチラシを見ていたら、下の写真のような記述があった。 よくあることと言えばそれまでだが、 この事業主のふだんの営業スタイルはかなり真面目で、信頼の置ける会社だと思っていただけに、 正直なところがっかりした。チラシには「事業主(売主)」としてこの1社のみ表記されていることから、販売委託はされていないようである。


マンションチラシのローン返済に関する典型的な「おとり」表記の一例。
「これなら返せる」と、早合点は禁物である。


 写真では細かな文字は見えないが、右の方の四角で囲った部分に、 「元利均等、35年返済 ※金利1.15%で計算」と書かれている。

 確かに借入額3,000万円、35年の元利均等返済(*1)、金利1.15%という条件で計算すると、 月々の返済額はほぼチラシのようになる(端数をどこに組み入れるかなどによって、 若干変わるため、厳密な元利均等返済の月割額ではない)。

 これ以上の記載がないので詳細はわからないが、1.15%というのは、 おそらく当初2〜3年間程度の固定金利であると思われる。

 こんな低金利で35年通して借りられるなどということは、ありえない。極めて初歩的な「常識」だが、 必ずしもこの「常識」が、一般の住宅購入者すべてにちゃんと認識されているかといえば、 否であろう。

 仮に3年目から変動金利に移行するとすれば、その時々の市場金利が適用される。 日銀が量的緩和政策を解除すれば、金利は確実に上昇する。いや、現在既に上昇は始まっている。 返済額の上昇は避けられない。 過去における長期金利水準を考えると、それほど遠くない将来に4〜5%程度まで上昇するということだって、 決して非現実的な想定ではない。そのくらい、現在の政策金利は、歴史的に異常な低水準なのである。

 長期ローンを組む場合には、そのような先まで見据えなければならないが、 現在のように先行き金利上昇が確実な時期に、最も安全と思われるのは、全期間固定金利を選択することである。

 長期の固定金利というのは、「金貸しのプロ」が将来の予測を行った結果、 自分たちが損をしないであろうと思われる合理的な金利水準(*2)なのだといえるから、基本的には損も得もないのだが、もし、 予想外の事態によって将来市場金利が低下するようなことがあれば、変動金利で借りていた人が結果的に得をすることになる。 反対に、予想以上に市場金利が上昇すれば、固定で借りていた人が得だったということになるのである。

 景気が回復すればするほど、金利先高感は強まるので、固定金利を選択するなら、早ければ早いほうがよい。

 住宅金融公庫と民間銀行が提携して商品化した「フラット35」(35年間固定金利商品)の金利をみると、 2006年3月1日現在では、都市銀行で2.74%〜2.94%。地方銀行では3%以上のところも多い。 住宅ローンの返済額を計算する場合には、最低でもこの程度の金利水準で計算しなければならない。

 借入額3,000万円、35年返済(元利均等)の場合の各金利水準における返済額は、下表のようになる。 1.15%は、上記チラシで採用されていた当初金利。3%は「フラット35」の水準。3.41%は、2006年3月7日から適用される 住宅金融公庫の一般融資金利(基準金利適用住宅分)である。

金 利1.15%3.0%3.41%5.0%
年間元利返済合計1,046,037円1,396,179円1,481,001円1,832,151円
毎月返済額(上記÷12)87,170円116,348円123,417円152,679円
35年支払総額約3,660万円約4,890万円約5,180万円約6,410万円
※借入元本3,000万円に、それぞれの金利に対応する元利均等返済率を乗じて、単純に1年あたりの元利合計返済額を算出した。

 つまり今、3,000万円の住宅ローンを借りるということは、月々の返済額は決して87,000円程度なのではなくて、 116,000円程度と考えなくてはいけないのだ。

 もし、当初の低金利に目を奪われ、変動金利を選択した場合、今後負担は確実に増加してゆく。 仮に5%まで上がれば、毎月15万円以上の返済を強いられる(※但し、その時点における未返済元本総額で計算することになるから、 実際にはそこまでの負担にはならないが、元利均等返済は利払いが先行するので、当初は元本返済がそれほど進まない点に注意)。

 当サイトのコラムNo.4でも指摘しているとおり、 3,000万円という借入をするために払う利息は、金融機関を儲けさせている「捨て金」である。3,000万円の借入に対して 返済総額が4,890万円(3%の場合)とは、差額の1,890万円はドブに捨てたという意味である(銀行さんごめんなさい)。(*3

 また、住宅購入、保有に必要な費用は、決してローン返済だけではない。

 購入時の登記費用その他の諸費用や税金等のイニシャルコストは別として、仮に自己資金500万円で、 3,500万円・専有面積80平方メートル程度の物件を購入したとすると、管理費15,000円/月(=180,000円/年)程度、 修繕積立金8,500円/月(=102,000円/年)程度、固定資産税+都市計画税200,000円/年 程度 で計算すれば、これらの諸経費だけで、年額482,000円になるから、月あたり4万円強のランニングコストが必要ということになる (※注:これらはあくまでも想定であり、立地やグレードによって額は当然異なる)。

 これらの他にも、駐車場を借りる場合には賃料が必要となるし、 その他トランクルームやルーフバルコニーの使用料とか、火災保険の保険料、インターネット接続料、CATV料金、 町内会費なども徴収されるだろう。また、あなたが亡くなったときのリスクヘッジとして、団体信用生保の保険料も必要となるだろう。

 以上を合算すれば、毎月17〜20万円程度の出費を住宅関連費用として、覚悟しなくてはならない。 それが負担できないのであれば、3,000万円の借金はすべきではない。 住宅関連費用は収入の3割程度に抑えないと、健全な家計とは言えないので、66万円以上の収入がなければ、 20万円の負担には耐えられないだろう。3%で借りても、この負担なのだ。

 実際に購入しようとしている物件の修繕積立金がもっと安いからといって、安心してはいけない。 適切な額が積み立てられないと、将来大規模修繕工事を行うときに積立不足として、一時金の徴収が必要となる。 従って、不自然に安い修繕積立金が設定されている物件は、将来まとまった出費を強いられるか、 あるいは積立額が増額されるに違いないのだ。さもなければ、適切な修繕をしないで資産価値を大きく下げるかだ。

 オーナーとして家を維持するために、どれほどお金がかかるかを、分かっていただけたと思う。

 金利上昇期には、巧みな表現で先行きを見えなくするセールストークが横行するので、十分に注意していただきたい。 ローンを組む場合には、これらをすべて踏まえた上で、決断していただきたいと思う。

 なお、「購入すれば自分の資産になる(*4)」とよく言われるが、返済が終わった35年後の時価を考えると、 1,000万円以上で売れたらかなり上出来であろう。その頃までに貯金をして(ローンを払いながら!)買い替えるのか、 死ぬまでボロボロのマンションに住み続けるのかは、購入者であるあなたの選択となることは、言うまでもない。 「子供の世話になるからいい」なんて、情けない親にだけは、ならないでくださいね。

2006年3月8日


*1:元利均等返済率(年賦償還率)
 なお、Microsoft(R) Excel のpmt関数を使えば、元利均等返済額(年額)が簡単に計算できる。これを12で割れば毎月返済額が出る。
(例)=-pmt(0.03,35,30000000,0,0)
 pmt関数は支払額を負値で返すので、頭にマイナスをつけると正の値が得られる。カッコ内の引数は、 順に(利率,返済年数,借入元本,返済後残高,支払期日)を表す。
 また、毎年の返済額のうちの利払い分はipmt関数、元本返済分はppmt関数で算出できる。
 実際に計算する場合には、各自Excelのヘルプ等を参照してください。

*2:もちろん金融機関としては、このように長期固定の債権を持つというのはリスクであるから、 通常は他の金融機関等との間で、固定金利と変動金利の「金利スワップ」取引を行って、ヘッジしている。 プロは我々素人に比べ、何重にも慎重なのである。

*3:ドブに捨てたという表現が過激というなら、ローン金利は、住宅という便益を得るために 自らコツコツ貯金をするのではなくて、便益の先取りと引き替えに支払わなくてはならないコストだと言い換えることができる。
 なお、「ローンを借りると金利分を捨てたことになるというなら、 家賃は全額捨てているじゃないか」という反論が出て来そうだが、この点もNo.4のコラムに書いたとおり、 物件価値に見合った適切な賃料を支払っている限り、用益に対する適切な対価であるから、 家賃というのは、購入した場合の元本返済分に相当する。つまり、家賃は決して「払い捨て」などではない。

*4:100%自分の「資産」になるのは、ローン返済が完了した後であるが、 所有という意味では、購入した時点で自分の「所有物」になる。購入して所有権を取得した瞬間から、 すべてのリスクは購入者に移転するのだ(但し基本的に引き渡し後。詳細な議論をしようと思うと、民法上の危険負担の話になる)。つまり、まだローンを1円も返済していない (=自己資金分を除き、全額負債)時に地震等で倒壊したとしても、各自の負担で建て直さなければならない(地震保険はここでは考慮外)。 阪神淡路大震災で、それに近い状況に見舞われ、現在も二重ローンを抱えている方々がいることを、決して忘れてはならない。 誰の身にも起こりうることなのだ。
 家を所有することは、そのようなリスクをすべて引き受けることなのである。このことの重みを、今一度誰もが考えるべきだろう。