No.72 「駆け込み消費」ムードに踊らされるな



 消費税増税まで半月を切った。


 この時期に増税に踏み切ることや、軽減税率の導入が先送りされたことなどに対して 様々な意見もあるが、それらの是非について今ここで触れることはしない(*1)。

 今年に入って、「増税前に買い溜めを」といった話があちこちでされているが、 多くは売りたい側のプロパガンダではないかと思われる。

 いよいよ直前に迫り、駆け込み消費ラッシュが日用品などにも及んでいる 昨今ではあるが、私はほぼ買い溜め行為はしていない。

 増税されると、あたかも本体価格は変わらずに、 増税分だけが純粋に値上げとなるような錯覚に陥りそうになるが、 市場経済というのは需要と供給で価格決定がなされるもので、 需要が落ち込めば、価格は下落せざるを得ない。

 増税前に慌てて買うべきか否かは、 その物の価格が硬直的であるか否かによって答えが変わってくる。

 一般に、競争メカニズムが十全に働き、価格がフレキシブルに変動しうるもの については、景気が落ち込めば価格はすぐに下がる。 同質の財が市場にたくさん出回っており、他との差別化が難しいものについて、 この傾向が強い。代表例として、毎年のように新製品が発売されるパソコンの 市場価格の変化が激しいのを見ればよくわかるであろう(*2)。 大多数のパソコンは、発売当初が価格は一番高く、あとは下がってゆく一方のようである。

 衣類や食品、日用雑貨なども、店頭での小売価格は常に競争に晒されている(*3)。

 反対に、競争メカニズムが働かない寡占市場にあっては、価格は景気動向に 敏感に追随したりはしない。典型例として、公共料金が挙げられる。 地域独占が認められ、主に原価積み上げ方式で価格決定されている電気料金などは言うに及ばず、 競合相手が存在しないわけではない鉄道運賃なども、事業者が一方的に決定する金額を、 利用者が受け入れているのが現状だ。

 こうして見てくると、増税前に購入しておくべきものが自ずとわかってくる。

 既に増税分が転嫁されることがわかっている鉄道運賃について、 通勤・通学定期を利用している人なら、定期券はできるだけ先まで買っておいた方がいい(*4)。 これは誰しもが気づき、実行している人も多いであろう。

 パソコンの価格変動が激しいことは既に述べたが、毎年新製品が出るわけではない白物家電などについては、 景気が冷え込んでも価格下落はそんなに大きくないかもしれない。ということは、 急いで買うべきなのは、パソコンよりは冷蔵庫、洗濯機などであろう。しかしそれも、 あまりに売れなくなれば家電量販店はすぐに売値を下げるかもしれない。

 日用雑貨などは価格競争が働きやすい分野なので、買い溜めするメリットはあまり ないし、大量購入すると気が緩んでムダに使ってしまう懸念もあるので、やめておいた方がいい。

 結局、明らかに増税前に買っておくべきと考えられるものは、 鉄道の定期券くらいではないか。

 増税後にまったく経済が落ち込まなければ、あらゆる財の価格は下がらないが、 過去の経験に照らせば、増税は確実に経済を冷え込ませる。 あくまで予想の話だからふたを開けてみなければわからないが、 4月以降、消費は相当に落ち込むと私は見ている。

 一部の大手輸出産業等は、給与のベースアップを決定し、さも景気が良くなっているかのごとき報道もなされているが、 このムードが末端にまで行き渡らないまま増税が実行されると、かなり厳しい経済状況となるのではないか。

 買え買え、という昨今のムードに、くれぐれも踊らされないようにしたい。

2014年3月18日


*1: 「決まってしまったことだから今さら何を言っても仕方ない」 などと、どこかの誰かみたいな台詞を吐くつもりはもちろんない。増税の時期、幅、 やり方の是非については、直接税を含めたトータルの税制の中で 議論される必要がある。

*2: 他社と差別化できている一部メーカーのパソコンなどには、この法則は当てはまらないかもしれない。

*3: もちろん、海外の有名ブランドの服や、生産量の少ない農産物などは、値崩れしにくい。

*4: 紛失しても何の補償もなかった従来の磁気式定期券等とは異なり、IC定期券の場合は補償されるので、 6カ月定期を購入することのリスクは以前と比べて格段に下がったと言っていい。